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2年生の矜持

雨の土曜日、午後になると男子達のゴソゴソが始まる。
湿気の多い密室では、特に紛争のリスクが高まる
気分転換すべく、私とスタッフ、男子3名(2年2名、1年1名)でトヨタ会館に向かった。

2年生のマモル、1年生のキヨシを抑え込み、実力行使で助手席に座る。
シートベルトを確認後、出発する。
音楽をかければ車内は落ち着く。

助手席のマモルがキヨシを振り返った。
「キヨ君、キヨ君」
「なに?」
「あのね、1年生のね、宿題はね、1年生はまだ楽しんどけばいいんだよ」
「え、そうなの」
「そうだよ」

(さすが2年生。優しいアドバイス。
それにしても、ちょっと上からいってる気が・・・。気のせいか・・。)

また振り返った。
「キヨ君、キヨ君」
「なに?」
「十の位が3で、一の位が4の数字は何でしょう?」
「え?えーと、わかんない」
「14?」
「ぜんぜん違う。ヒント。30の近く」
「29?」
「はい、ブー」
「31?」
「ブー。違います」
マモルがもう一人の2年生、ジュンを振り返った。
「ジュン、ぜったいに答え教えたらダメだから」
「わかってる」
ジュンも応じた。

(2年生が結束してる・・・。珍しい・・・。
1年生には算数だけでなく、自分で考える大事さを教えるなんて、なんて優しい先輩・・)

「答えは34でしたー!!」

(え、ちょっと、待てよ・・)

(まさか、そんなこと・・・。もしかして、2人して1年生にマウン・・・?)

私は頭に浮かんだ疑惑を振り払った。


トヨタ会館に着いた。
スタンプ集めに夢中になる3人。
2階のスタンプ台に向かった。

トイレから出た時、不穏な気配を感じた。
スタンプ台の前で、マモルとキヨシが小競り合いをしている。
後ろには人が並んでいたので、なんとか2人を引き離した。

スタッフ、ジュン、キヨシは奥の展示に進んでいった。
一方、不貞腐れたマモル、「勝手に帰るぞ」ポーズをちらつかせながら、館内を徘徊する。
でも私は、マモルの性格を知っている。

いつもマモルは私のアイスコーヒーを奪い取る。
「飲むね」
「コーヒーだよ。苦いよ」
「いいよ。飲むね」
「美味しくないよ」
「じゃあ飲むね」
「べつにいいよ」
「ほんとに飲むね」
口をつけるふりをして、そのたび私の顔を盗み見る。
そして、結局は、マモルは絶対に口をつけることはしないのである。

しかし、それはマモルに限ってのことである。
ジュンには通用しない。
ジュンは麺つゆのボトルに、本当に口をつけたのである。


再びトヨタ会館。
私はつかずはなれず、マモルを追尾した。
1階に降りたマモル、すぐにエスカレーターで2階に戻ってきた。
そしてなぜか、またすぐに1階に降りていった。
一瞬マモルを見失った。
1階、人込みの奥のスタンプ台にマモルを発見した。
「ああ、上手に押せたねえ~」
ベテラン警備員が話しかけている。

マモルはスタンプ用紙を手に、再びエスカレーターで2階に昇って行った。
マモルが私を発見した。
「みんなどこ行った?」
みんなを探しているようである。
どんな心の内はわからないが、なにかしらの納得を得たのは確かであろう。

ロビーにある給水機に3人が群がっている。
「お腹がちゃぷちゃぷいってる」
少々粗っぽいかと思いつつ、3人の襟首を引っ張り、強制的にトイレに向かわせた。

帰り、
既成事実のごとく、マモルは普通に助手席に乗り込もうとする。
一方のキヨシ、マモルの意図をいち早く察知したのか、隙をつき助手席に半身を入れようと試みる。
もはや解決策はジャンケンしかない。

一瞬で勝負がついた。
マモルは
「ああ~、負けた~」
と、拍子抜けするほど潔く、後席に座った。

「マモル君が走っちゃだめなのに走ってた」
「キヨ君のほうが走りまわってた」

他人の行動はよく見えるようである。
でも、私は知っている。
3人とも、ほぼ均等であった。
当日、最低でも48回くらいは注意したのではないだろうか。

そして、マモル君、ジュン君へ提案がある。
次の外出では、
「キヨ君、2年生ともなれば、部屋の中では走らないんだよ」
と余裕の風格を見せたらどうだろうか。

夏休み、新メンバーへのルール説明が控えている。
今年は2年生にお願いしてもいいかもしれない。